「矛盾螺旋」公開につけて


空の境界、五章「矛盾螺旋」の公開が始まりました。
タイトル全体の作業としては、これにてようやく折り返しを迎えることができたな、という所です。
初回のCG打ちが2008年6月5日となっていますから、本格的なスタートはそんなに前じゃないみたいです。コンテに書かれた「宇宙が開闢する」「ここで何か凄いポーズ」なんて監督の指示をなぞりつつ”?”を浮かべたまま大変なことになりそうな予感だけを感じていました。

映画の精神的/構造的な起源は”パノラマ”であると言われています。
パノラマ、とは基本的に円筒状の空間を作り周囲の空間と円筒内を物理的に遮断、
パノラマ内を通路にそって歩く観覧者に窓から覗く別の風景(当時は絵)を通じて
”別の空間”を感じさせるというものです。
現在するパノラマは世界に100もありませんが円筒形の建築>劇場、窓>フレームである、と変わっただけで、劇場、という形で僕達は同じ体験を得る事が出来ています。

劇中の空間といえば、巫条ビルやその水に覆われた屋上ステージ、
月明かりの竹林や嵐の橋〜コンクリに囲まれた地下駐車場など
これまでも多様な舞台が物語や人物の心情への導線となっていたのですが
本章、矛盾螺旋の舞台の一部である小川マンションは
敵であるアラヤの居城であり結界でありそれ以上の存在。
繰り返し繰り返し登場し、場所そのものが物語を進める鍵でもあります。
複雑でトリッキーな構造を理解し、確実に表現する為に
演出・脚本側で綿密な考証の上、実際に模型を制作、
それを元に撮影部ではアイララボラトリさんの助力も得て
一度小川マンションを周辺環境まで含め完全に3Dモデルを起こすなど
空間の強度=リアリティ(映像を通しそこにいるかのような実感)を高める為にかなりの時間を割きました。如何でしょうか。

そのほか、前回も触れた事ですが
試写で改めて感じたのは画質面での劇場の優位性。
極小のチリのグロー感や美術のディテールに至っては
現状ですと劇場のスクリーンでしか観測できないようで
いくつか発見もあったので折をみて見返しに行こうと思います。

上映館情報につきましては公式HPをご覧ください。

今回はいつにも増して高い映像密度、
複雑な構成をもったタイトルに仕上がっています。
過ぎ去った映像を二度三度反芻する中で
隠れた主役を発見できるかも知れません。

そんな訳で、お楽しみに。

撮影部 寺尾